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ぱる通信〈PAL BULLETIN〉

年賀状本が店頭に並ぶ季節になりました

 映画にもなった「チョコレート工場の秘密」という児童文学を皆さんはご存じだろうか。
 作者はロアルド・ダールというノルウェー系の英国人。ダールは作家になる前、ロイヤル・ダッチ・シェルのアフリカ駐在員だったり、英国空軍(RAF)で戦闘機乗りとして第二次大戦に参戦した経歴を持つ。後にはディズニー映画の原作を書いたり、ハリウッド女優のパトリシア・ニールと結婚して長らく米国に在住していた。
 彼は大人向けの短編小説の名手でもあった。私は学生時代から彼の作品が好きで、さほど多くはない彼の短編集を愛読した。しかし、児童文学でも有名な作家であることは当時は知らなかった。
 絵本・児童文学の書き手というのは、欧米ではとても敬意を払われるそうだ。「はらぺこあおむし」や「モモ」などの作品は日本でもよく知られているが、その作者であるエリック・カールやミヒャエル・エンデの作家としての地位は欧米ではとても高い。子供の将来に夢や方向性を与える仕事と考えられているせいかもしれない。
 私の子供たちがまだ小さかった頃、絵本を読んでから寝かしつけることを習慣にしていたのだが、子供は大人が「ええっ!?」と思うようなところでゲラゲラ笑い、毎晩、同じ話をこちらがウンザリするくらいせがんだ。
 児童文学や絵本のストーリーには、大人が忘れてしまった「楽しい!」と感じさせる話のツボがあるらしい。
 この分野の作家たちは、大人になっても、子供の頃の感覚を失わずに持ち続けている人たちなのだろう。これは簡単なようで難しい。子供時代は毎日のように目新しいことが起こるが、ある年齢を境に人は過去の経験に照らし合わせて物事を判断するようになる。つまり、子供のように新奇性に目を輝かせることが減ってくるし、無鉄砲ではなくなる。それが大人の分別であり、子供のような大人ばかりが巷に溢れていたら困るわけだが…。
 しかし、ダールはそんな子供の心がふんだんに残っていた人で、彼の子供向けの作品には理不尽な大人をやっつける子供たちが多く登場する。これは彼の寄宿学校時代の強権に抑圧された体験がベースになっているようだが、子供たちはそんな物語のシーンに、日頃、両親や先生たちから受ける鬱憤を昇華し快哉をあげるのだろう。

◇    ◇    ◇

 大人向けのダールの作品の中でも特に好きなのが、「少年」と「単独飛行」という2冊の自伝的作品だ。
 親元を離れて英国の厳しい寄宿学校に入るところから始まり、やがて卒業して、大学には進まず就職し、商社マンとしてアフリカに渡る。折しも第二次大戦が始まると軍隊に志願して、転戦ののち大怪我をして帰国し、疎開先の母の元に帰って来るという波瀾万丈の12〜24歳頃のストーリーだ。
 傷病兵としてアフリカから復員してきて、家の門の前で待ち続けていた母親の腕の中に飛び込むラストシーンは感動的で私の大好きなエンディングだ。
 彼は幼い時に父親を亡くしていて、母親の女手一つで育てられたのだが、寄宿学校時代、アフリカ時代と離ればなれに暮らした時間はとても長い。しかし、母と息子の結びつきはとても強かったようで、離れている期間にも頻繁に手紙を交換し合っている。母親の死後、彼女が残していた息子からの大量の手紙が見つかっている。
 今ならさしずめマザコンなんて言われそうだが、やはり、母親の息子に対する無償の愛は偉大だと思う。
 リリー・フランキー氏の「東京タワー」も、気恥ずかしくなるくらいの母への愛のオマージュだが、ベストセラーになったのは、たぶん、ふだんは嫁に慮って素直に表明できないその種の息子の想いを、リリーさんが何のてらいもなく描き出したところが、世の男性陣の心にストレートに響いたからではないだろうか。
 もっとも、感動したのは男性がほとんどで、女性にとってはぞっとするテーマだったのかもしれないが…。
 たしかに「メシが不味い」なんてことを気兼ねなく言えたのは母親くらいのもので、ガールフレンドが作った出来損ないの料理だってオトコは「いや、なかなか美味しいよ」なんて言うものである。結婚してからも、しばらくは無理してそう言い続けたものの「お袋の味は良かったなあ…」という言葉が、何度ノド元までせり上がってきたことか…。もちろん、それは禁句で、そのうち嫁の味に慣れて自然に文句も言えるようになるのですがね。
 母と息子の結びつきと、嫁と姑の不仲は永遠である。
 物語の良さは、ふだん澱のように心に溜めているものを、一瞬にして掬い上げてくれるところにある。

(大)

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